「私たち、出会わなければよかったね」

「なんだよ、それ……」

　俺は眉をしかめる。ユイも涙をこらえるかのように顔を歪めた。

「だって、出会わなければ、こんなふうに別れる寂しさを感じることもなかったのに。シュウくんにつらい思いをさせることだって」

「ユイ！
」
　俺は力いっぱい叫んでユイに歩み寄る。

「勝手なことばかり言うなよ！　俺だってユイと同じで、ずっと逃げてた、なにも信じられなかった」

　一歩近づく度に、ユイは困惑の色を目に宿していく。彼女の姿は薄くなる一方だ。でも俺はなんの迷いもなくユイとの距離を縮めていった。

「けれど、俺はユイに会って変われたんだ。たくさんのことに気づけた。……だから『出会わなければよかった』なんて言うなよ」

　最後は自分でも驚くくらい弱々しい口調になった。意識せずとも目の奥が熱くなっていく。懇願するように俺は必死に続ける。

「戻って来いよ、ユイ。ユイはひとりじゃない。今までも、これからだって。俺たち、まだお互いに知らないことがたくさんあるから、その分いっぱい話そう。俺が一緒にいる。ずっと、そばにいる」

　ユイが目を覚ましたとしても、必ずしも幸せになれる保証なんてどこにもない。無責任なことは言えない。

　けれど、俺の口からでたのは。嘘偽りない本心だった。人生は上手くいかないことばかりだ。努力したら必ず報われるわけでもなく、結果はときに残酷で。

　それでも自分が気づかないだけで、そこから得られるものはたくさんある。

　誰かと関わるのが嫌になって、傷つくこともあるのに、みんな誰かを求めずにはいられない。それは傷つけることもあれば、癒すことができるのも、人なんだって知っているから。優しい人は意外と身近にたくさんいるんだ。