俺には経験がないから、想像するしかできない。それでも胸が潰れそうになる。この痛みの何倍ものつらさを、ユイはずっと感じていたんだ。

 よかれと思ってしたことが、そんなふうに返ってきて、ずっとひとりで闘って。

「中学校に上がってからは、ほとんど学校に行かなかった。その分インターネットで授業を受けるフリースクールのようなかたちで、家で勉強をして、本もたくさん読んだよ。ただ、外に行くのが、人と関わるのが怖くて家に引きこもりがちだった。だから、おじいちゃんやおばあちゃんにもいっぱい心配をかけて、迷惑もかけちゃった」

 ユイは小さな体をさらに縮めて自分を抱きしめた。自分を責める物言いに『そんなことない!』と叫びそうになったが、それ以上の言葉が続けられない気がして、俺は自分の唇をぐっと噛みしめる。

「事故にあったのは」

 そして唐突に、ユイはどこか遠くを見つめ事故の話題を切り出した。その横顔を食い入るようにして見つめる。

「本当に偶然。なにかに突き動かされて『このままじゃ駄目だ』って不意に強く思って、部屋を飛び出した。あてもなく歩いてた。そのとき、見えたの」

「見えた?」

 続きを促す形で尋ねると、生ぬるい風が頬を掠めた。ユイは少しだけ沈黙したあと、ゆるゆると口を開く。

「お父さんとお母さんが事故にあったときと同じもの。禍々しくてとても嫌な感じがするものだった。私はその先に女の子を見つけたの。そして気づけば体が前に出ていた」

 見通しの悪い交差点での事故で、飛び出した女の子を庇い、代わりにユイがスピードの出ていた車にぶつかったらしい。

「一命をとりとめたのが奇跡だって。最初は死んじゃったのかと思ったけど、私はこうして曖昧な存在になったの」

「どうしてユイは、こんなところにひとりでいるんだよ?」

 ようやく俺は乾いた唇を動かして質問できた。もし自分なら、たとえ自分に気づいてもらえなくても、身内のそばにいるんじゃないかと思う。