「子どもの頃は、今よりもっと神社に人も来ていて、余計なことを言ってよく叱られていたの。そして私、お父さんとお母さんが事故で亡くなるときにも、悪いものが見えた。ふたりのことは、どこか記憶もおぼろげなのに、あの禍々しい縁だけは、今でもはっきり覚えてる」

 ユイの声は震えている。俺はそんな縁に出会ってはいないが、きっと目に焼きつくほどショックなものだったのだろう。結果を考えても当然だ。

 俺は口を挟まずにユイの話に耳を傾ける。

「でも、それがどういうものなのか説明するのが難しくて。私は分かっていたのに、なにもできなかった。お父さんもお母さんも事故に遭って死んじゃった」

 ユイは今にも泣き出しそうだった。ユイの両親が亡くなったのは三歳頃だと聞いている。意思疏通はできても、まだまだ言葉足らずな年齢だ。

 それでも、見えていたのに止められなかったという事実は、ユイにとって大きな傷になったに違いない。

「お父さん、お母さんの件があってから、あんな思いは二度としたくなくて、積極的に縁で分かる範囲のことは、本人に教えるようにしたの。いいことも、悪いことも。でもそれって普通じゃないんだよね」

 普通では分かり得ない、誰かの気持ちや出来事を言い当てるのは、『すごい』という羨望から次第に『怖い』という畏怖の対象へとなっていった。それは、無理もない話だ。俺だって最初はユイの存在が怖かった。

「『魔女』とか『エスパー』とか、いろいろ言われて。悪いことがおきれば全部私のせいにされて。そんなんだから友達も離れていって、最後はひとりになっちゃった。直接的な嫌がらせはなくても、近づこうとしたら避けられて、無視されて、自分がいない存在に扱われて。それがずっと続いて、学校も行けなくなったの」

 痛みをこらえる言い方だった。見た目だけじゃない、心の深い傷だ。そんなユイに俺はどう言葉をかければいいのか浮かばない。