夕方とはいえ、まだ空は明るく気温もそこそこ高い。そんな中、駆けたら体の至るところから汗が吹き出してくる。一瞬だけ『コンビニに寄ろう』という考えが頭を過ったが俺は目的地に急いだ。

 商店街に入り、道行く歩行者や自転車を避けていく。ぶつかりそうになっても、謝って前に進んだ。いつもの鳥居をくぐって石段を駆け上がる。まだ見えるだろうか、ちゃんといてくれるだろうか。

「ユイ!」

 力の限り叫ぶと、ユイは初めて会ったときと同じく賽銭箱の向こう側に立って、驚いた顔でこちらを見ていた。でもどこかその存在は揺らめいて薄く感じる。

「シュウくん」

 それでもまだユイが見えることに安堵して、俺は膝に手をついて肩で息をする。ようやく深く息が吸えた。素早く呼吸を整え、再びユイに視線を戻して話しながら近づいていく。

「ユイ、俺見つけたんだ」

「え?」

「ユイは神様でも幽霊でもない! 死んでなんかいない、ちゃんと生きているんだ! 帰る場所があるんだよ」

 俺はもう一度、章吾から託された封筒の中身を見た。そこには一枚の写真が入っている。写っているのは、神主夫妻と一人の少女だ。真ん中の彼女はぎこちない笑顔を浮かべている。

 ちょうどユイが今いる位置辺りで撮影されたらしい。そして神主夫妻の間に立つ少女は今よりも幼いが、まぎれもなくユイだった。

「本当は……知ってたんだよな」

 疑問ではなく断定して問いかけると、ユイが驚きの色を顔に浮かべた。