「改めて、ありがとうございました」

 突然、声をのボリュームを上げてお礼を告げられ、俺は目をぱちくりとさせた。けれど翔人の顔は真剣そのものだ。

「どうしたんだよ?」

「あの日、神社に来なかったら、あの絵本を見つけられなかったら、俺は両親に隠したまま絵を描くのをきっと諦めていましたから」

 俺が家を訪れて、翔人の祖母の残した絵本を見つけたのがきっかけで、翔人は自身を奮い立たせられた。でも、それは彼の祖母がアンに託した縁があってこその話で、その縁を叶えたのは俺じゃない。

 俺は、励ましの意味も込めて軽く翔人の肩を叩いた。

「ばあちゃんの願いが神様を通して叶ったんだよ。そんで、そこから行動するのを決めたのはお前自身なんだから。俺は、なにもしてないって」

 ユイは、こうやっていろいろな人たちの縁を、気持ちを繋いできたのか。ほっこりする反面、なぜか翔人は物悲しい表情を浮かべた。

「俺、ばあちゃんが亡くなる前、『もう危ない』って親から聞いていたのに、なかなか会いにいけなかったんです。あんなにばあちゃんが大好きだったのに。向き合うのが怖くて、弱っていくばあちゃんを見るのがつらくて……本当、馬鹿なことしたなってずっと後悔しています」

 そこで翔人は軽く息を吐いて、真っ直ぐに俺の目を見た。その瞳には強い決意が滲んでいる。

「だから、もう逃げません。ちゃんと、ばあちゃんにいい報告できるように、精一杯やってみます」

 そう俺に宣言した翔人は、俺にというより自分に言い聞かせている気がした。

 翔人と別れてから、俺は再び駆け出した。今の翔人の気持ちが俺には痛いほど分かる。誰かとの別れに向き合うのは、ものすごくつらい。目を逸らして、逃げ出したくなる。

 でもそうすれば、もっと後悔してつらくなるだけだ。ようやく、そのことに気づけた。だから、どうか間に合って欲しい。