目を開けるとカーテン越しにも、すっかり日が高いのが感じとれた。ゆっくりと顔だけを動かす。おでこに張ってある冷却シートがぶよぶよして気持ち悪い。

 長く息を吐いて上半身を起こすと、枕元に置いてあったスマホで時間を確認する。もう昼近かった。

 意識が完全に覚醒しベッドから起きる。そのときドアがノックされ、俺が返事するまもなくドアが開いた。顔を覗かせたのは案の定、母親だ。

 本当に、我が家の連中はノックの意味を分かっていなさすぎだろ。

「起きた? 朝、声かけたけどよく寝てたから、学校には休むって連絡しておいたわよ。体調はどう?」

「熱は下がった」

 俺は力なく答えた。測っていないので確信を持っては言えないが、昨日のだるさはもうない。

「じゃあ、解熱剤以外の薬を飲んどきなさい。朝昼兼用で、うどんでいい?」

「一玉もいらねー」

 熱がないとはいえ食欲はなかった。元々そこまで食べる方でもないし。しかし、汗をかいたからか、水分が欲しくなり、枕元にあった飲みかけのスポーツドリンクをグビグビっと喉に押し込む。ついでに、これのおかわりを要求しておくか。

「食べられないなら残していいから。なにか胃に入れないと薬飲めないでしょ?」

 言い捨てて母親はドアから顔を引っ込めたが、ところがすぐに「あ、そうそう」と再びを顔を覗かせてくる。

「バレエ教室に衣装、持っていったわよ。あんたが『おいといてくれ』っていうのは残してるから」

 憲明や章吾に宣言したとおり、俺は自分の衣装を教室に寄付すると決めた。本当は俺も一緒に行きたかったが、この調子だったので昨日のボーイズの時間を見計らって母親がひとりで持っていってくれたらしい。

「菜穂子先生がまたいらっしゃいって言ってたわよ」

「母さん」

 俺が不意に声をかけたので、母親は閉じかけていたドアを不思議そうな顔でさらに開けた。