「それはね、相手と別れたくないから落ち着かないの! ついでに、苛々してるのは別れるのがつらくて悲しい気持ちを誤魔化そうとしてるの!」

 俺は目を見張った。佐原は自分の頭に手を当てて呆れた顔をしている。

「あーもう。なんでそう思うのかぐらいは、自分で考えなさいよね。まったく人にはずけずけと敏いくせに自分のことにはここまで鈍感とは」

『シュウくんの鈍感』

 佐原の言葉で、ふくれっ面でそう言い放ったユイの姿が頭を過ぎった。

「お前だったらどうする?」

 やれやれ、とわざとらしく肩をすくめる佐原に問いかけると、相手はかすかに眉を動かして俺と視線を交わらせる。

「事実や結果がどうであれ、自分の思っていることを全部相手に伝えるわよ。別れたくないって気持ちも全部。っていうか、あんたが言ったんでしょ? 自分の気持ちを相手に伝えたってばちは当たらないんだって」

『その気持ちを藤本本人にぶつけたってばちは当たんねえんじゃねえの』

 いつか佐原に言った言葉が自分に返ってきて刺さった。佐原には偉そうに言っておいて、なにを自分は逃げようとしているのか。

 ユイをあんなふうに一方的に責めて、俺だって人のことなんて言えないじゃないか。

 そうだ。ああやって佐原に言えたのも、ユイがいたおかげだったんだ。俺の本当の気持ちはなんなんだ? 俺はユイになにを伝えたいんだ?

「なんか顔色悪いけど、大丈夫?」

 急に神妙な面持ちになり、佐原が心配そうに近づいてきた。たしかに、あまり体調はよくない。

「ちょっと、あんた熱があるじゃん」

 遠慮がちに、俺の手に触れた佐原が慌てる。

 熱?

 あまり実感が湧かなかったが、ずっとだるさを感じていたのはそのせいだったのかもしれない。言われて自覚した途端、体が熱くてしんどさが増してきた。