「ここ最近、変らしいじゃん。森野たちも心配してたよ」

 森野と知り合いなのか、と思ったが、今その事実はどうでもいい。むしろ俺の方が学校での人間関係が狭すぎるのだ。

 黙ったままの俺を強引に廊下の端に導くと、声を潜めつつも力強く佐原は話しかけてくる。

「なに? 私でよかったら話を聞くけど? あんたには借りがあるし」

 ここでやっと、俺は佐原がわざわざ心配して声をかけてきたのだと気づいた。とはいえ、この気持ちをなんて言葉にすればいいんだ?

 俺の葛藤などそっちのけで『で、どうしたの?』と尋ねてくる佐原に俺の中のなにかが声にななる。

「最初から別れが決まっている相手との別れが実際に近づいていて、どうしようもなく苛々している」

「はぁ?」

 突拍子もない説明に、佐原は声をあげた。無理もないだろう。

 一方で自分の気持ちを少なからず口にできたのを皮切りに、俺は(せき)を切ったかのように徒然と今の状況や気持ちを言葉にしていく。

「どう足掻いても、別れなきゃいけないんだ。そいつには世話になったからなにかを返したいのに、なにも返せなくて。……その気持ちが相手のためなのか、自分のためかさえ分からなくなって、結局自分がなにをしたいのかはっきりさせられないんだ。だったらいっそのこと、相手について考えないようにしようって思いつつ、気づけば思い浮かべているんだよ。おかげでずっと落ち着かないんだ」

 脈絡もなく捲し立てると、佐原は軽く首を傾げた。

「なにそれ。相手は男なの? 女?」

 今、気にするのはそこなのかと思ったが、俺は素直に答える。

「……女、だけど」

 俺の答えを聞いて、佐原は盛大なため息をついた。

「あんたねぇ、それはなにかを返せていないから苛立ってるんじゃないと思うわよ」

「なら、なんなんだよ」

 はっきりしない佐原に俺は眉を寄せて返した。