木曜日は朝からずっと雨で薄暗かった。蛍光灯が教室を煌々(こうこう)と照らし、眩しすぎる光は逆に不愉快だった。

 いや、それも言いがかりだ。とにかく早く時間が過ぎるのを願っていた。

 田島と森野に学食に誘われたけれど、食欲がまったくなく断ってしまった。体も重く頭も痛い。意識しないように、と思っても気づけばユイのことばかりを考えてしまう。

 俺は、自分がどうしたいのかが分からない。『ユイのためにできることを』と言いながら、なにもできない。……それも押しつけにすぎなかったんだよな。

 この気持ちをどう言い表せばいいのか。答えが見つからない。俺はまた、自分ではどうしようもない現実を前に逃げ出してしまった。

 これじゃバレエを辞めたときと同じだ。この痛みは時間が過ぎ去れば、なくなるんだろうか。そこで考えを改める。

 時間だけのおかげじゃない。バレエを辞めて腐っていた俺が立ち直れたのは、向き合うことができたのは、ほかでもないユイのおかげだった。その事実にまた胸が軋む。

 授業を終えて放課後になり、重い足取りで玄関口へ向かう。相変わらず外は灰色の世界で、誰もいない校庭には大きな水溜りができていた。

「ちょっと」

 突然の声に反射的に振り向く。そこにはこちらを真っ直ぐに見据える人物が腕を組んで立っていた。

「佐原」

 縁絡みで知り合った隣のクラスの佐原史華だ。それにしても、なんか怖い顔をしてないか? 俺が何かしたのか?

「なに、大好きなアイドルの熱愛報道を聞いたような顔してんのよ! 目が死んでるわよ!」

「すげーたとえだな、それ」

 俺は力なく答える。今は佐原とのやりとりに付き合っている余裕もない。佐原はふんっと鼻を鳴らすと大股で俺に近づいてきた。