優しく微笑むユイの姿が直視できず、俺はふいっと目を逸らした。さっきからいくつもの感情が混ざり合って、胸の奥が締めつけられる。

「これからも、絵を描いて自分の夢を叶えて欲しいね」

 『夢』という言葉に俺は以前のユイの発言を思い出した。

『……歩いて、走ってみたい』

「ユイもさ、人の縁とか夢ばかり叶えてないで、自分の希望を叶えることを考えてみたらどうなんだよ」

 自分でもらしくないと思うほど低く冷たい声だった。ユイは苦々しく笑う。

「無理だって言ったじゃん」

「人には『諦めて欲しくない』とか言って、なんでそんな簡単に自分は無理なんて言うんだよ!」

 弾かれたかのごとく俺は叫んだ。ユイは驚きもあってか、その表情から笑顔は消えている。その顔を見て一瞬、迷いが生じたものの俺は自分で自分を止められなかった。

「ずるいだろ。人の事情にはおかまいなしに首を突っ込んできて、あれこれ言うくせに。自分のことは全部棚に上げて、最初から無理だって諦めて」

「……そうだね、ごめんね」

 しょぼんとうつむくユイに、どうしようもない罪悪感と苛立ちを覚えてしまう。これは完全な八つ当たりだ。

 空が耐え切れなくなくなったと訴えるこのタイミングで雨が降ってきた。石畳の色を少しずつ変えていく。俺はそれ以上、なにも言えず傘を差して逃げるように神社に、正確にはユイに背を向け駆けだした。