「あ、シュウくん!」

 神社に行けば、ユイがこちらに手を振っている。いつもの光景。でも、これをあと何回見られるのか、何回ユイに会うことができるんだろうか。

 俺はぐっと唇を噛みしめた。

「なんか雨が降りそうだな」

 わざと笑って空を見上げる。なにげなく話題にしたが、本当にさっきから雲行きが怪しい。たしか天気予報では夜から雨だった。

 すっきりとした汗を流せるならいいが、じんわりと滲む汗は不快感しかない。

「落ち着かない天気だね」

 ユイも普通に返してきたので、俺は余計なことを言わない。

 新月まであと何日だとか、ユイ自身のことを聞き出そうとか。もうそれも全部不毛なんだ。ユイの言うとおり意味がない。

 あとは、迫り来る別れをどうやり過ごすか考えるだけだ。

「ユイ」

「あ、そういえば!」

 話を切り出そうとしたら、先に大きな声でユイが告げてきた。

「さっき翔人くんがアンちゃん連れてきてくれてたよ!」

 久々に聞く名前に俺は翔人とアンの顔を思い浮かべた。そういえば、あれから連絡を取っていない。翔人は絵を続けているのだろうか。

 そんな俺の考えを読んだかのようにユイが説明してくる。

「翔人くん、なんだか前に来たときよりも穏やかな顔をしてたよ。やっぱり私が縁を直接どうこうするよりも、シュウくんが話を聞いてあげたのがよかったのかも。シュウくんのおかげだよ」