「シュウくん、気持ちは有り難いんだけれど、私は自分のことはどうでもいいんだ。今、こうして神社に来る人たちの願う縁をお手伝いする、この現実だけで十分なんだよ」

 なだめる口調で告げるユイに俺は意味もなく苛立ちを覚えてしまう。

「ユイは今までも、これからもずっとそれだけでいいのか? ユイの願いはほかにもあるんじゃないのか?」

 ユイは静かにかぶりを振った。そして悲しそうな目で俺を見つめてくる。

「ないよ。私にはない。それよりもシュウくんと一緒にいる時間を大切にしたい。新月まであと五日なんだよ」

 そんなことは、とっくに知っている、そう言いたかったのに声にならなかった。今までどちらも口にしなかったけれど、ユイも確実に終わりを意識していたらしい。

「俺の縁が見える力は、どうしても新月で消えてしまうのか?」

「多分。今は私の力がシュウくんに移っている状態だから。本当はこんな状況がおかしいだけで、新月になればその力を失ってシュウくんはまた元通りになるよ」

 “元通り”というのは縁を見える力が消えてしまい、つまりはユイを見るのもできなくなるということだ。

 胸が痛い。この痛みの正体はなんなんだよ。この痛みも消えるのか? 元通りになるってどこまでが?

 ユイは無理やり笑顔を作った。

「私のことまで気にしてくれてありがとう。でも昼間も言ったとおり、私の正体が判明したとしても、それこそ無意味なんだよ。私はここから動けないんだから」

 俺はそれ以上、ユイに対してなにも言えなかった。