コンクールに出ても、自分が上手く踊るより、他の参加者がミスしないかなと考えたこともある。そうやっては自己嫌悪を陥って、落ち込んだりもした。

 多かれ少なかれ、そんな感情は誰にでもあるんだ。でも、自分のマイナスな心に向き合ってコントロールするのも結局は自分にしかできない。

 俺は軽く息を吐いた。

「俺がコンクールとかで使った衣装、何着か教室に寄付するからさ、お前らがしっかり使ってくれよ。コンクール出るなり、発表会出るなりしてさ」

 ずっと手放せなかった数々の衣装。もう自分は着ることがないと頭では理解しているのに、どうしても決断できなかった。

 ユイは驚いた顔で「本当にいいの?」と声をかけてくる。もういいんだ。自棄になったわけじゃない。まだまだ可能性もあって、バレエを続けられる憲明たちが羨ましかったりもしたけれど、今はそんな彼らにしっかりと自分の夢を託せられる。

 そんな決意のこもった俺の提案に対するふたりはというと……。

「でも俺にはちょっと小さいかな」

 と、俺よりも背の高い章吾が申し訳なさそうに言った。

「俺には大きすぎるね」

 と、俺よりも小柄な憲明がしょんぼりして言った。しかし、すぐに「あ、でも」と顔を上げる。

正信(まさのぶ)とか喜ぶんじゃない!?」

「まさのぶ?」

「あー、そうかもな。ほら、前に教室来てくれたときに、新しいやつがいたのに気づいた?」

 章吾に促され、俺は記憶をたどった。そういえば、見ない顔でこちらをじっと見てきたやつがいたのを思い出す。

 『知らないやつが来たな』と鬱陶しく思われているのかもしれないと思っていた。その彼について憲明が説明する。