「でも、それって結局、俺が自分をしっかり持っていなかったからなんだ。どんなに比べられたって周りになんて言われたって、自分の意志があれば関係なかったはずなのに……思ってたより俺ってバレエに対してなにもなかったんだな」

「そんなことないだろ!」

 間髪を入れずに強く遮ったのは憲明だ。

「なにもないのに、五年も続けられるほどバレエは甘くないよ。そんなわけないじゃん、章吾は背も高くて体型だってダンサー向きだし。……俺は身長低い方だから」

 あまり口にはしなかったが、まだ成長期とはいえ小柄な憲明はやはり身長を気にしていたらしい。すらっと背の高い章吾の隣に並べば嫌でも比べてしまうのも無理はない。

「これから憲明だって伸びるって!」

 章吾が慌ててフォローする。しかしそれは逆効果だろう。その証拠に憲明はどこか諦めた表情になっている。

「どうだろ。うち両親共に低いから。母さんにもよく『章吾くんみたいに背が高かったら』って言われるし」

「でも憲明は俺より体柔らかいだろ。ジャンプも安定してるし」

「それは小柄だからっていうのもあるよね」

 いつの間にかお互いに褒めながら羨ましいところを言い合っている状況に、俺はなんだか穏やかな気持ちになっていた。共感という方が正しいかもしれない。

「他人を羨ましがったり、比べて落ち込んだり、嫉妬したりって、きっと誰にでもあることだよね」

 同じくして成り行きを見守っていたユイが静かに呟いたので、軽く頷く。

 俺だって他人と比べて、自分がどうしようもない人間だと何度も思えた。妬んで、羨んで、苦しくて。