「前のバレエ教室で処世術はそれなりに学んだよ。よそ者なのに、へたに浮くような真似はできないって」
あどけなさの残る憲明の表情はどこか冷ややかで、知らないやつみたいだ。
少しばかりの沈黙に、周りの音がいっきにボリュームアップした感じだ。そして今まで静かな口調だった憲明が、なにかを思い出したかのごとく突然、吹き出した。
俺と章吾は事態が飲み込めないままだったけれど、空気ががらりと変わる。憲明はなぜか笑いを必死に堪えていた。そして震える声で語りだす。
「でもさ、全然期待してなかったのに、ここのバレエ教室はものすごく居心地が良くて。菜穂子先生の指導もメンバーの緊張感も、前の教室の比じゃないくらいぬるいと思った。でも、みんな気さくで優しくて、一緒に舞台を作り上げていく喜びとか、バレエが好きだってこっちに来て初めて思えたんだ」
それから憲明は章吾を見た。
「教室の雰囲気はもちろん、大きかったのはシュウくんや章吾のおかげだよ。俺、レッスン以外でバレエの仲間とこうして遊んだりするのも初めてだった。バレエのことで弱音とかも含めてこんなに話せるのも。とくに章吾は同い年なのもあって、いっぱい話せて嬉しかった……だから、章吾がバレエを嫌になっているのに気づいて、なにかできないかって」
憲明はぐっと唇を噛みしめる。俺は静かに成り行きを見守った。時間帯からか、男三人顔を突き合わせてなにやら深刻そうな雰囲気を醸し出しているからか、近くの席に人の姿はない。
「シュウくんもバレエ辞めちゃって。そんで章吾までバレエを辞めちゃったら、それが俺のせいなんだったら……それで、あんな嘘をついたんだ。章吾のためとか、そんなのじゃなくて俺が居心地のいい場所を失いたくなかっただけなんだよ」
あどけなさの残る憲明の表情はどこか冷ややかで、知らないやつみたいだ。
少しばかりの沈黙に、周りの音がいっきにボリュームアップした感じだ。そして今まで静かな口調だった憲明が、なにかを思い出したかのごとく突然、吹き出した。
俺と章吾は事態が飲み込めないままだったけれど、空気ががらりと変わる。憲明はなぜか笑いを必死に堪えていた。そして震える声で語りだす。
「でもさ、全然期待してなかったのに、ここのバレエ教室はものすごく居心地が良くて。菜穂子先生の指導もメンバーの緊張感も、前の教室の比じゃないくらいぬるいと思った。でも、みんな気さくで優しくて、一緒に舞台を作り上げていく喜びとか、バレエが好きだってこっちに来て初めて思えたんだ」
それから憲明は章吾を見た。
「教室の雰囲気はもちろん、大きかったのはシュウくんや章吾のおかげだよ。俺、レッスン以外でバレエの仲間とこうして遊んだりするのも初めてだった。バレエのことで弱音とかも含めてこんなに話せるのも。とくに章吾は同い年なのもあって、いっぱい話せて嬉しかった……だから、章吾がバレエを嫌になっているのに気づいて、なにかできないかって」
憲明はぐっと唇を噛みしめる。俺は静かに成り行きを見守った。時間帯からか、男三人顔を突き合わせてなにやら深刻そうな雰囲気を醸し出しているからか、近くの席に人の姿はない。
「シュウくんもバレエ辞めちゃって。そんで章吾までバレエを辞めちゃったら、それが俺のせいなんだったら……それで、あんな嘘をついたんだ。章吾のためとか、そんなのじゃなくて俺が居心地のいい場所を失いたくなかっただけなんだよ」