固まっている憲明をよそに、章吾は俺たちの間の空いている椅子に乱暴に腰掛けた。

「悪いな、憲明。章吾とも話がしたかったから待ってもらってたんだけど、どうやら聞こえたみたいで」

 悪びれもなく答えた俺に、憲明は怒るよりも呆然としていた。

「最初から章吾くんにも聞かせるつもりだったのに、シュウくんひどーい。これって騙まし討ちってやつでしょ?」

 横からユイが突っ込んできたが、無視する。結果的に憲明を騙す形になってしまったのは、申し訳ないとは思う。

 でも俺を通してではなく、どうしてもこのふたりはお互いに直接、本音を話す必要があると思ったんだ。

「怪我したって嘘だったのかよ。俺のため? ふざけんな! 俺のこと哀れんでんのか!?」

 いつも物静かな章吾が、こんなふうに激昂する姿は初めて見る。それは憲明も同じのようだ。その顔からはいつもの明るさも笑顔も消えている。

 章吾の迫力に圧されて憲明は(こうべ)を垂れた。

「嘘ついてごめん。でも『章吾を哀れんで』とか『章吾のため』とかそんなんじゃない」

「じゃぁ、なんなんだよ」

「章吾、ちょっと落ち着けって」

 俺が口を挟むと章吾はぐっと唇を結んだ。ユイは関係ないのにふたりの間でおろおろと落ち着かない様子だ。とりあえず俺たちは憲明の言葉を待つ。

「俺、ずっとバレエが嫌いだった」

 そして憲明の口から出た言葉に俺も、そして章吾も目を見開く。それくらい思いもよらない内容だった。憲明は空になったアイスのカップを両手でぎゅっと握りしめた。