「私の能力って神社の名前通り、月の満ち欠けが関係しているの。新月になると、私はいつも一度力を失って少しだけ眠るんだ。今日はちょうど新月だったから、能力もちょっと弱ってて。反対に満月のときが一番力が強くなるんだけどね。あ、でも縁切りをするなら、新月のときがおすすめだよ!」

 どうでもいい情報を混ぜてくるので、なかなか話が進まない。それは彼女も自覚したのか、わざとらしく咳払いをした。

「とにかく、次の新月にはまた力がリセットされるだろうから、それまでの間だけでいいの。お願い。今の私は縁が見えなくて、どうすることもできないし」

「んなの知らねーよ!」

「まぁ、そう言わずに。シュウくんは縁は見えても触れないんだよね? でも大丈夫、参拝者と話すことができるなら、なにを願って望んでいるのか聞くことができるし」

「話を勝手に進めんな! そもそもなんで俺がそんなことしないといけねーんだよ」

 断固拒否の姿勢を見せると、ユイは両手をパンっと合わせてこちらに迫ってきた。

「お願い! みんないろいろな思いを抱えてここに来てるの。私も、もちろんできることは手伝う。だから」

「無理! だいたい、なんで自分でなんとかせずに、神頼みをするようなやつのために働かないとなんねーんだよ。そんなの自分でなんとかしろって」

 するとユイの表情が一転して真顔になった。おかげで俺は少しうろたえて黙りこむ。

「なら、シュウくんはどうしてここに来たの?」

 静かに問いかけられ、俺は目を見張った。その声は小さかったけど、俺の胸に直接響く力強さがあった。

「自分ではどうにもできない、なにかとの縁をどうにかしたくて、ここに来たんじゃないの?」

 ユイの真っ直ぐな瞳に、なにもかも見透かされているような気持ちになる。俺は奥歯をぐっと噛みしめた。

「とにかく、俺は手伝わない!」

 それだけ叫ぶと、今度こそ鞄を持って俺は神社をあとにした。