「あいつ、本当にバレエ好きなんだよ。こんなところで辞めるのなんてもったいないって。今は一時の気の迷いっつーか。シュウくんだってそう思うだろ?」

「だから、“怪我したふり”をしたのか?」

 真っ直ぐ問いかけると憲明の瞳に動揺の色が走った。

「ふりって、んなわけないじゃん。ちゃんと病院にも行ったし」

「そうだな、言い方が違うか。正確には、そこまでひどい怪我じゃないんだろ?」

 憲明が、なにかを言う前に俺は言葉を継ぐ。

「変だと思ったんだ。病院のあとで俺に会うために神社まで来てくれたのはいいとして、その前に時間があるからって足を痛めてるのに神社まで来るか?」

 いつも通いなれているからあまり意識しなかったが、あそこの石段は怪我をしている足にはなかなかきついはずだ。

「それに、憲明言ってたよな。『病院で温熱療法してもらった』って。それは本当なんだろうけど、怪我をしてまだ間もなく、腫れも引いていないなら温熱療法はしないだろ」

 温めるのは腫れや痛みが引いたあとだ。バレエで足などを捻ったり痛めたときもまずは冷やすのが基本だ。それは憲明だってよく知っているだろう。

「……やっぱりシュウくんに嘘つくのって難しいや」

 カップに残ったアイスをスプーンですくって、憲明は観念したように認めた。

「これ、捻挫は捻挫だけどシュウくんの言うとおり、そこまでひどくないんだ」

「なんで、怪我の具合について嘘をついたんだよ……章吾のため、なのか?」

 確認する気持ちで尋ねると、憲明は軽く首を横に振った。そして「別にシュウくんを責めるわけじゃないんだけどさ」と話しはじめる。