「遅くなってごめん」

 エレベーターの近くで陣取っていたところに、左足をかばいながら憲明は笑顔でやってきた。

「木曜日、シュウくん早速来てくれてたんだって?」

「ああ。っと、なにかいるか?」

 なにも頼まずに居座っておくのも申し訳なくて、俺は先にマックで飲み物だけ注文していた。それももうなくなりそうだ。

 憲明は辺りをキョロキョロ見回してからアイスをリクエストしてきたので、俺の分も合わせて買いに行く。

「それで、話ってなに?」

 アイスを三口ほど食べ進めたタイミングで憲明が切り出す。

 丸テーブルで正面に座ると、少し距離があって話しづらいので、俺と憲明はひとつ椅子を挟んで微妙に斜め隣の位置で腰かけていた。俺から見て憲明は左側なので、そちらに自然と目を向ける。

「章吾がバレエを辞めるかもしれないって」

 チョコミントを舌の上で溶かして、俺はゆっくりと告げる。それからたっぷり間があって、憲明は持っていたスプーンをアイスのカップに添えて小さく呟いた。

「……そうなんだ」

「あまり驚かないんだな」

 そして憲明の落ち着いた返答に、俺も驚きはしなかった。

「まぁ、薄々感づいてたんだ。章吾がバレエを苦痛になってんの」

「なんで苦痛になったか憲明は知ってんの?」

 その問いかけに憲明は答えない。周りはざわついているのに、俺たちのテーブルはやけに静かだ。そして憲明はわざとらしく明るい声で言った。

「章吾さ、辞めるかもってことは、まだ辞めるって決めたわけじゃないんだよね? シュウくんはなんて言ったの?」

 俺は黙っていた。すると憲明はなにかを訴えかけるように必死な形相で続けてくる。