「でも、なんであんな商店街の中に分社があるんだよ。商売繁盛と関係あるのか?」

「菊理姫って縁結びの神様でもあるんだけど、稲穂を実らせる農耕の神様でもあるんだって。で、あそこって昔は農作をしていた土地だったらしく、天災やらで上手く作物が実らない年が続いて、本家に掛け合って社を作らせてもらったらしい」

 初めて聞く話ばかりで俺は相槌を返すだけしかできなかった。いつもなら頭が痛くなりそうな内容だが、そこは田島の声や言い方のおかげか、ユイに関係することだか、ちゃんと頭に入ってくる。

「時代が変わってからも神社はずっと商店街の人々をはじめ、神主さんもいて大事にされてきたんだ。いつの間にか縁結びの方がメインって言われるようになったらしい」

「へー」
 
 森野まで感心する声をあげた。田島は純粋に教師というか教える職業に向いていると思う。

「っていうのも、あそこの地名が月白だろ? 月白って月が出ようとするときに、空が白んで明るく見えることって意味があって、月への信仰もあったらしい。月の満ち欠けから物事の吉兆を占うなんてよくある話だし、そういうのも合わさっていったのかもな」

 俺の心臓は大きく跳ねた。俺の動揺など知る由もなく、そこで田島は一呼吸置き、メモに目を走らせる。そして「あ、そうそう」とさらに付け足した。

「お前が知りたがっていた神社関係者のことなんだけど、さっきも言ったとおり、あそこにも神主さんはいたらしい。小さいからほかの神社と掛け持ちしてたそうだ。でも二年前に引っ越して、今はたまにしか帰ってこないらしい」

「なんで引っ越したんだよ」

 当然の疑問を俺は口にする。すると田島はわざとらしく肩をすくめた。