「失礼でしょ! 女の子に向かってあんな叫び声をあげるなんて」

 なんで俺が説教されているのか。気づけば辺りも薄暗くなってきている。ここから日が沈むのは早いから、とっとと終わらさなければ。

 先程心配して駆けつけてくれた男性には『蛇が出て驚いた』と言い訳して、なんとか誤魔化した。

 本当は蛇の比ではないようなものが出たんだけど。

「で、つまりあんたはなんなんだ?」

 彼女と三十センチほど距離を置き、俺は本殿前の石段に腰かけて聞いた。あのまま、なにもかもほっぽってこの場を去ってもよかったのだが、それはそれでいろいろあとから悩みそうで怖い。

 とにかく、俺の頭がおかしくなったにしろ、目の前で起こっている事態に向き合うしかない、という結論に渋々達したのだ。

 離れて座る彼女の足は相変わらずないので、そっちには視線を極力向けないようにする。

「私はユイさ……気になってたんでしょ、名前? よろしくね!」

 気になっていたのはもちろん、そんなものではないけれど、それをいちいち突っ込む余裕も今はなかった。

 笑顔で手を差し出されたが、当然、握手する気になれない。そもそもできるのか?

「それで、あなたの名前は?」

「……シュウ」

 こちらの思考を無視して彼女、ユイは聞いてきた。信用できない人間(なのか?)にはフルネームを教えないのは鉄則だ。ぎこちなく名前を告げるとユイは満足したらしい。

「分かった、シュウくんね! じゃあ早速だけど、私の代わりに縁を取り持つのを手伝って欲しいの!」

「はぁ? 何言ってんだよ」

 今まで抱いていた得体の知れない恐怖をすべてふっ飛ばして、素で反応してしまった。なんだってそんな話になるんだ。

 ユイは呆れた面持ちで肩を落とす。

「だって、どういうわけか分からないけど、どうやら私の縁を見る能力(ちから)があなたに移っちゃったみたいなんだもん。大丈夫、もちろんずっとなんて言わないから。次の新月まででいいの」

「新、月?」

 突拍子もない区切りに俺は目を丸くした。小学校の理科で習った気がするものの普段、馴染みがなさすぎる。

 たしか、月と太陽が重なるから地球から月が見えないんだっけ?