いつの間にか入り口に移動していた相沢が、深々と腰を折り、謝罪の言葉とともにゲストたちを送り出している。

 ルイは、ひっくり返したり上空に掲げたりして、欠片をあちこち確認しはじめた。続いてもう片方の欠片も、同じように隅々まで見渡している。

 故意ではないにせよ、獅子倉氏のお気に入りのティーカップをその手で割ってしまった敬太郎は、立ち尽くしたまま完全に生気を失っていた。

婚約発表が台無しになってしまっただけでなく、獅子倉氏の信頼すら喪失しかけているのだから、当然のことだろう。

いい人だけに敬太郎が気の毒で、良太はすがるようにルイに尋ねた。

「ルイさん、ティーカップをすり替え、取っ手に油を塗り込むなんてこと、いったい誰がしたんでしょう……?」

 ルイなら何とかしてくれるかもしれないという、崇拝にも似た期待を抱いていた。

 ルイはようやく割れたティーカップから視線を上げると、会場をぐるりと見渡した。そして一瞬眉を顰めると、敬太郎に美しく微笑みかける。

「敬太郎さん、大丈夫です。あなたの無実は、すぐに証明できるでしょう」

「本当ですか……?」

 敬太郎の瞳に、わずかに光が戻った。

 はい、と頷いたあと、アーモンド形の瞳が良太に向けられる。

「確かめたいことがあります。良太君、私についてきてくれますか? 敬太郎さんは、こちらで少しお待ちになってください」