「え!?」

 驚きの声を上げる良太。俯いていた敬太郎も、力なく顔を上げた。

「そうなんです。持っただけですぐにつるっと滑ってしまって……」

「それってつまり、誰かが意図的に敬太郎さんにカップを落とさせたってことですか?」

 良太の問いかけに、ルイが頷いた。

「その可能性は高いですね。お出しする予定のなかった獅子倉様の大事なティーカップを極秘に用意し、故意に敬太郎さんに割らせた。獅子倉様の怒りを買いたかったのでしょう」

「そんな……。誰がなんのために」

 温厚な富豪を公衆の面前で怒らせて、得を得る人などいるのだろうか。

良太は、よりいっそうわけがわからなくなる。

 そうこうしている間にも、ゲストは次々と帰り支度をはじめていた。

一組、二組と、場をあとにする。状況を見て、パーティーは中止と判断したのだろう。

家主がいつ戻るか分からないのでは、パーティー再開の目途が立たない。

「申し訳ございませんでした。お気をつけてお帰りくださいませ」