「どういうことだ! 敬太郎君! ルイ君! 相沢!」

「は、はい……!」

 敬太郎が、泣きそうな顔で直立する。ルイは落ち着いた表情で「はい」と前に進み出、相沢は相変わらずの無表情でどこからともなく現れた。

 獅子倉氏が、まずはルイに食ってかかる。

「ルイ君、このカップは、この場には出さないはずだっただろう? なぜこの場所にある!?」

「もちろん、そのはずでございます。数刻前に確認したとき、お出しするカップの中にそちらのマイセンカップはございませんでした」

「どういうことだ……?」

 獣の唸りのような声を出したあと、今度は相沢を振り返る獅子倉氏。

「相沢! カップを配るときはどうだった? マイセンカップが紛れていることに、気づかなかったのか?」

「お配りするときも、そのようなカップはございませんでした」

 青ざめていた獅子倉氏の顔が、今度は赤味を帯びていく。

 理解しがたい事態に、怒り心頭のようだ。

「では、マイセンカップが敬太郎君の前に突如瞬間移動したというのか? そして、真っ二つに割れたとでも? そんなこと、ありえるはずがないだろう!?」

 獅子倉氏は咎めるような視線を、敬太郎に寄越した。

「申し訳ございません……!」

びくっと肩を跳ね上げた敬太郎が、震えながら俯く。

死後ですら連れ添うと謡っていたほどに、愛しているコレクションカップだ。獅子倉氏は、大事なコレクションの残骸を前に、我を忘れている。