「このたびは、ご婚約おめでとうございます。素敵なご婚約者様ですね」

「ありがとうございます。いやあ、僕にはもったいないお話でして」

 照れたように後頭部を掻きながら答える敬太郎は、上流階級の人間にありがちなかしこまったところがなく、気さくそうだ。

「綾乃さんとは、どこでお知り合いになられたのですか?」

「まさに、このお屋敷です。ちょうど、三年前になるでしょうか」

 敬太郎は、綾乃との馴れ初めを語り出した。証券会社で働く敬太郎の祖父は、プロヴァイオリニストとして、世界を股にかけ活躍していた人物だったそうだ。

音楽にも造脂が深い獅子倉氏と敬太郎の祖父はかねてより互いの家を行き来する仲で、三年ほど前に敬太郎もこの屋敷で開かれたパーティーに招待された。

その際当時大学生だった綾乃に一目惚れし、折りを見計らって獅子倉氏に交際をしたいと打診したようだ。

「綾乃さんのような清楚でお綺麗な方は高値の華と思っていたのですが、獅子倉氏伝いに、交際を了承してくださいまして。一年ほど経ってから思い切って結婚を申し込んでみたところ、よい返事をいただけました。一緒に出掛けたことはまだ数えるほどしかないのですが、本当に素敵な方で、天にも舞い昇る心地ですよ」

 敬太郎が、窓際で女性と話し込んでいる綾乃に、ちらりと視線を送る。

こちらに気づいた綾乃が、にこりと会釈した。たちまち敬太郎は頬を赤らめて小さく手を振り返す。こちらにまで、幸福ぶりが伝染しそうな勢いだ。

「幸せそうで、いいですねえ……」

 羨望のまなざしで良太が呟けば、「はい」と敬太郎はのろけを隠そうとしなかった。

「彼女のことは絶対に幸せにすると、常々思っています」

「それは頼もしいですね。あなたのような方であれば、獅子倉様もさぞやご安心でしょう」

 ルイが言えば、敬太郎はまた照れたように笑った。

 午後三時。アフターヌーンティーパーティーは、まさに始まろうとしていた。

各々のテーブルに、獅子倉家の使用人たちがティーポットと砂時計を配りはじめる。窓際の良太とルイの席にも、例外なく用意された。

「紅茶って、各テーブルで自分で入れるんですか? ついで回ったりしないんですか?」