ルイはといえば、さりげない光沢感が気品漂うグレーのスーツ姿だった。

ブルーのネクタイとポケットチーフが、絶妙にしっくりきてる。

パーティー会場を、ルイが長めの前髪を片手でかき上げながら見渡せば、その場にいた獅子倉家の女性使用人たちの眼差しに熱がこもった。

パーティー会場となるテラスルームは、アーチ型の窓から入り込んだ日差しに大理石の床が淡い光を放つ、豪華な装いだった。

椅子とテーブルの配置具合、花やキャンドルなどのテーブルセッティングを確認したルイが、感心したように息を吐く。

「カトラリーの間隔まで完璧です」

「獅子倉さんが張り切ったんですかね」

良太が言えば、ルイがやんわり否定した。

「いいえ。家主はそのようなことをするものではございません。おそらく、優秀な家令の仕事でしょう」

「家令? ああ、あの相ざ……」

「いかがでしょう」

 気配もなく背後から声がかかり、良太は飛び跳ねそうになった。

 振り返れば、今日はタキシード姿の相沢が立っている。

「さすがは、相沢様。何もかもがプラン通りですね」

「お褒めにあずかり光栄です。雄三様と綾乃様の大事な場ですので、ぬかりはございません」

「なるほど」

 にこにこと微笑んでいるルイに対し、相沢はいつもと変わらない無表情だ。

「パーティーが始まるまで少し時間がありますので、よろしければ応接室でお休みになられてはいかがでしょうか」

 手持ち無沙汰になってしまったルイと良太に、相沢が告げた。


 アフターヌーンティーは、イギリスの貴族社会で遅い夕食が慣例となっていた十九世紀、ある公爵夫人が空腹しのぎに紅茶や焼き菓子を口にするようになったのが事の起こりとされている。

公爵夫人は友人たちをもてなすようになり、貴婦人たちの交流の場として定着していった。

 ティーカップのコレクターである獅子倉氏は、無類の紅茶好きでもあった。

そのためアフターヌーンティーパーティーを大事な孫娘の婚約発表の場にしたのは、彼にとって自然なことのようだ。


 午後二時三十分。

ルイと良太が応接室からパーティー会場へ戻れば、色鮮やかなティードレスを着た女性たちやスーツ姿の男性たちが続々と集っていた。

「ルイ君、良太君。よくぞ来てくれた。君の演出は、大好評だよ」

 若い男性を伴った獅子倉氏が、上機嫌で入り口付近に佇むふたりに声を掛ける。

「気に入ってくださり、光栄です」