〔うちも、今日緊急で獅子倉様のところから食器の発注を受けたからね。パーティーでもするんじゃないかって、予想してたんだ。ちなみにそちらのお店を獅子倉様を紹介したのは、うちだからね。お互い支え合って商売やってるってわけだよ、ははっ〕

 明日までの期限をあさってまでに引き延ばしてもらい、電話は終わった。

結局、その日ルイが店に帰宅したのは、夜遅くになってからだった。

 修繕の期日を伸ばしてもらったことを話せば、ルイは満足そうに目を細めた。

「良太君、さすがですね。連絡してくださり、助かりました」

「いや、僕はなにも。沙也加さんが電話したらって、提案してくれたんですよ」

 美しい笑顔に褒められると、調子に乗ってしまいそうだ。照れを誤魔化すように、良太は指先で頬を掻いた。

「そういえば早乙女さん、獅子倉さんから食器の発注を受けたって言ってましたよ。何かトラブルでもあったんですか? 使う予定だった食器が割れたとか」

 思い出したように良太が言えば、ルイは腑に落ちない顔をした。

「いいえ、何もありませんでした。食器を発注したなどと言う話は聞いていませんが」

「じゃあ、獅子倉さん、コレクションをまたこっそり一つ増やしたのかな」

「そうかもしれませんね。年がら年中ティーカップのことを考えておられるような方なので」

 パーティーで使う予定のない食器を発注したのであれば、演出を任されているルイが知らなくてもおかしくはない。

コレクションというものは、集め出したらいつ何時でも見境なく欲しくなるのだろう。特に大富豪ともなれば、流水のようにお金を注ぎ込んでしまうものなのかもしれない。

無趣味なうえに金なしの良太には、理解しがたい感覚だ。

 明日は、どんなパーティーになるのだろう。

豪邸でのアフターヌーンティーパーティーなる未知の世界に、良太は知らず知らず心弾ませていた。
 
     3

 翌日。

 ルイと良太は他の招待客よりも一足先に獅子倉邸に来ていた。会場設営の最終確認のためだ。大方のセッティングは、ルイが前日に終えたらしい。

良太が着ているパーティースーツは、太めの長兄が痩せる予定で購入したものが、長い年月を経て結局もやし体系の良太のもとに回ってきた代物だ。

うっすら格子模様の入ったダークグレーの細身のスーツは、好みのデザインではないが、これしか持っていないので仕方がない。