「また修繕依頼だ。どうしよう、ルイさん留守なのに」

「何が届いたの?」

 カウンターで逡巡していると、良太が手にしている荷物を沙也加がひょっこり覗き込んでくる。

「洋食器の修繕依頼ですよ。ルイさんの修繕技術を気に入ってくれているらしくて、ときどきこうやって贔屓の洋食器店から委託されるんです」

良太は、ルイがひびの入ったティーカップの修繕をするところを、見せてもらったことがある。

まずは亀裂箇所をアセトン希釈液で磨き、ひびをなぞるように、専用の接着剤で繋げる。そして軽くオーブンで焼いたあと、余分な接着剤をアルコールで除去していく。

このふたつの工程をいかに巧みにするかで、仕上がりが異なってくるらしい。再度オーブンで焼き、修繕箇所をより強固にすれば完成だ。

とにかく、良太にとっては見ているだけで喉がイガイガするような、細かすぎる作業だった。

それを苦汁の表情ひとつ見せずにやすやすとこなすルイには、またしても一目置いてしまう。

「ただこのお店、期限が無茶苦茶早くて、すぐに取りかからないと間に合わない依頼ばかりなんです。でもルイさん今不在だし、このままだと期限に送れるかも」

 無茶な修繕期限を受け入れている代わりに、ルイは洋食器を安く仕入れるという恩恵をうけているようだ。いわゆる、持ちつ持たれつの関係なわけである。

「じゃあ、その洋食器屋さんに電話して、すぐには取りかかれないことをお知らせしたらどうかしら? 事前にきちんとわけを話せば、修理が遅くなっても、先方も理解してくださるんじゃないかしら」

 綺麗にケアされた爪先で、沙也加が宅配伝票に書かれてある電話番号を指し示した。

「それもそうですよね。さすが沙也加さん、機転が利く」

「社会人の常識でしょ。丸の内OLをなめないでちょうだい」

 そう言いながらも、沙也加は褒められたことに気をよくしているようである。

 良太はさっそく早乙女洋食器店に電話をかけ、ことの次第を説明した。

 中年男性と思しき声が、電話向こうで残念そうに呻いた。

〔そっかあ、ルイ君留守かあ。まあいつも無理言ってばかりだし、今回は仕方がないね。ちなみにルイ君が請け負っているパーティーって、獅子倉様のところのだろう?〕

「えっ、ご存じなんですか?」