レオパード柄のピアスを光らせ、白のハイヒールを繰り出し姿を現したのは、今日も左右寸分なく巻かれた髪を胸もとで揺らした沙也加だった。

カウンター向こうにいる良太と目が合うなり、沙也加がにっこりと微笑みかけてくる。

「こんばんは」

「いらっしゃいませ……」

 ルイが余計なことを言って以来、良太はどうやら変に気に入られたようで、沙也加はことあるごとに店を訪れてはやたらと良太に絡んでくるのだった。

「ルイさんはいらっしゃらないの?」

「ただいま外出中です」

「あらそう、まあいいわ」

 サイドの髪を耳に掛けながら、沙也加はカウンターに一番近い席に腰かける。

「……今日はどういったご用件で?」

「今度のパーティーに着ていく服を、悩んでいるの。相談に乗ってくださらない?」

 沙也加はバッグからスマホを取り出すと、鏡の前で自撮りした画像を良太に順々に見せる。

水色のタイトなワンピースに、黄色のシフォンワンピース、ワインレッドのマーメイドドレス。どのスタイルにも、レオパード柄のワンポイントは忘れていない。

 正直言って、良太にはどれも同じに見えた。
 ていうか、この店ってパーティーに着ていく服の相談まで乗るところなの?と素朴な疑問を抱きつつ、「うーん」と良太は首を捻った。

けれども、バカ正直なのが災いして、答えを出せない。

「良太君は、どんなファッションの女性が好みなの?」

 しびれを切らした様子の沙也加が聞いてきた。

 どうやら、ようやく名前を覚えて貰えたようだ。

「……そうですね。露出はなるべく控えめで、清楚なイメージがいいですかね」

 先日見た綾乃の面影が、脳裏を過る。清々しい春の空気に囲まれているような、清涼感と透明感のある人だった。控えめで、沙也加とは真逆のタイプである。

 想像の中の綾乃に夢見心地になっていると、「ねえ」という鋭い声が飛んできた。

「今、違う女のこと考えてたでしょ」
「えっ!?」

 芸術的なまでにメイクを施された瞳に睨まれ、身の危険を感じた良太は、怯えたハムスターのように身を縮める。

 すると、タイミングを見計らったかのように、裏口のインターホンが鳴った。思わぬ助け舟である。

「ちょっと出てきますね!」

 逃げるように沙也加の傍を離れた良太は、いつもよりも何倍も明るい笑顔で配達人を出迎え荷物を受け取った。

浅草かっぱ橋にある、早乙女洋食器店からだ。