秘密の部屋を一望するなり、良太は感嘆した。

 食器棚に四方を取り囲まれた部屋は、日光によって食器が痛まないようにするためか、窓一つなかった。

人が使うわけではないのにエアコンが設置されているのは、寒暖差や湿度により食器が痛むのを防ぐためだろう。

食器棚はほとんどが木製の戸に覆われていたが、中段だけはガラス張りになっており、仕切りで区別された空間にティーカップがずらりと並べられている。

見たことがない仕様の食器棚なので、特注品かもしれない。

「相変わらず、保存状態がよいですね。美しいティーカップを、これだけ美しいまま保っていらっしゃるのも珍しい。獅子倉様のティーカップに対する愛情の深さが伺えます」

 ルイの賛辞を受け、獅子倉氏は誇らしげに口髭をさすった。それから、次々とガラス戸を開け、コレクションを手に取り紹介していく。

「これは、初期のウェッジウッドのジャスパーウェアだよ。ウェッジウッドミュージアムから買い取りたいと申し出があったほどの貴重な品だ」

「カメオが今のものより重厚で、惚れ惚れするほど美しいですね」

「それから、これは実際にイギリス王室で使われていた、ロイヤルウースターの品だ」

「内側の金の保存状態が素晴らしい。フルーツのモチーフも、ほとんど欠損なく残されていますね」

 良太にはさっぱり理解できない用語が、獅子倉氏とルイの間に飛び交う。

 中ほどのティーカップを手に取ったとき、獅子倉氏はひと際嬉々とした声を出す。

「そして、これが1817年製のマイセンのティーカップだ。葡萄葉模様が美しいだろう。価値としては先ほどのウェッジウッドやロイヤルウースターには叶わないがね、わしがドイツの骨董品店で初めて買ったコレクション第一号だ」

 獅子倉氏から手渡されたそれを、ルイが丁重に上から下から観察する。

「緑の葉文様も見事ですが、鳥を模した柄の部分がとりわけ美しいですね。さすが、御目が高い」

「そうだろ? あの世にも、一緒に連れて行くつもりだからな。それほど大事な思い出の品だ」

 ひと通りコレクションを見せてもらったあとで、ルイはアフターヌーンティーパーティーで使用するカップを選び始めた。

今しがた見せてもらった、ガラスの向こうに並べられていたコレクションは観賞用で、使用はしないらしい。

それでも二百人は余裕で呼べるほどのカップが、食器棚から次々と姿を現す。