玄関前でふたりが車を降りると、大きな扉が開いて中から男が姿を現した。
「桐ケ谷様、お待ちしておりました」
年は、ルイと同じくらいだろうか。
薄茶色の柔らかそうな髪、漆黒のスーツにグレーのネクタイ。
切れ長の瞳が際立つシャープな面立ちは、ルイと肩を並べるくらいに整っている。身長もスタイルも大差ないだろう。
京成線近くには密かにイケメンが隠れ住んでいるものなのかと、良太は思わず二度見してしまった。
「相沢様、ご無沙汰しております」
ルイが、微笑を浮かべながら挨拶を返した。獅子倉雄三は常連客とのことなので、何度かこの屋敷に来たことがあるのだろう。
相沢の瞳が、良太を捕らえた。いつもはいない連れの存在に気づいたのだろう、続けて礼儀正しく腰を折る。
「はじめまして。私は獅子倉家の家令をしています、相沢と申します」
「はじめまして。八神良太と申します……」
「桐ケ谷様、八神様。ご案内いたしますので、どうぞ中にお入りください」
鳩血色(ピジョン・ブレッド)の絨毯が余すところなく敷き詰まった廊下、光沢のある木製の柱と壁、緻密な蔦模様の施された天井。
内装は大正から昭和にかけて流行した西洋風の木造建築で、近代建築にはない重厚さに圧倒される。
螺旋階段のふもとにある一部屋へと、ルイと良太は通された。
廊下とは打って変わった白亜の壁に囲まれたその部屋は、部屋の一面が窓になっていて、緑豊かな和風の庭園が見渡せた。
窓辺に置かれたロココ調のカウチソファに腰を据えていた男性が立ち上がり、ふたりを出迎える。
「ルイ君、待っていたよ。よくぞ来てくれた」