「千葉に、こんな場所があっただなんて……」

 車の外を眺めながら、良太は驚きの声を漏らした。隣に座っているルイがそっと耳打ちしてくる。

「昭和のはじめ頃、海神山付近は富裕層の別荘地としてにぎわっていました。今は住宅地として開発が進み、昔とは装いが変わりましたが、それでもお屋敷は知る人ぞ知る場所にこうして残っているのですよ。獅子倉様も、ご先祖様が建てられた別荘を大事にされていらっしゃる中のひとりです」

 獅子倉雄三。

それが、今回の顧客の名前だった。

 獅子倉家は明治の末紡績業で莫大な財を成し、その栄華は今に続いている。

数年前に家督を息子に譲り引退した獅子倉氏は、別荘地で余生を愉しんでいるらしい。