「エステもジムも行ってるし、ヘアケアにもスキンケアにも気を遣ってる。完璧に自分を磨き上げてるのに、誰も振り向いてくれないのよ。いつも、恋の相談を受けたり仲立ちをしたりしてるだけ」

 艶のある髪に、無駄な贅肉のないスタイル。肌はスベスベで、爪の先までくまなく手入れが行き届いている。

たしかに、沙也加のルックスには隙がない。
絶え間ない日々の努力の賜物なのだろう。

「着付け教室も、お料理教室も、食空間演出講座も習ってるわ。でも、今のところなんの役にも経ってないし。お金と時間を裂いて、空回りしてるだけ」

 全ては、高スペックのイケメンを手中に収めるため。けれども、気の強い本性が災いして、功を奏してないのだろう。

 いつしか、良太は沙也加の気持ちに同情していた。

 努力をしても報われない切なさが、痛いほどに分かるからだ。

 本当はさくらよりも沙也加の方が、何倍も不器用な人間なのかもしれない。

「……沙也加さん」

 思わず呼べば、沙也加は訝しげにこちらを見た。

お前は話しかけるな、的な視線が怖かったけれど、良太は勇気を振り絞る。

「沙也加さんは、まぎれもない美人です」

 沙也加の顔が、一瞬にして固まった。

「沙也加さんの本当の美しさに気づいてくれる人が、この世には絶対にいるはずです」

 出会いは、思いもかけない場所に転がっているものなのかもしれない。

西洋の器が、長い船旅を経た東洋の器と出会ったように。

 ふてくされていた沙也加の瞳が、にわかに揺らぐ。

 アルコールによるものとは別の赤みが、頬に差した。