沙也加は苦手だけれど、この間とは少し違う彼女の雰囲気が気になった。

 沙也加はバッグの中からスマホを取り出すと、ルイの前に差し出す。

「直樹さんからのLINE。見てくださらない?」

 良太は露骨に肩を跳ね上げた。

どういうこと?とルイに視線を走らせても、ルイは動揺ひとつ見せずに沙也加のスマホ画面を確認している。

良太がいる場所からはやや距離があったので、はっきりとは見えなかったけれど、メッセージにツーショット画像が添付されているのがぼんやり見えた。

「『うまくいきました。相談に乗ってくださりありがとうございます』ですか。万事解決ですね」

 ルイが、沙也加にスマホを返した。

「ほんと、解決してくれたようでよかった。想い合ってる恋人同士の気持ちの後押しも、大変なことね」

「お疲れさまでございます」

 たまらず、良太はふたりの会話に割って入る。

「……もしかして沙也加さん、直樹さんから恋の相談を受けていたんですか?」

 話しの流れから察するに、そうに違いない。

そして直樹から相談を受けたことを、沙也加はルイに相談していた。

 ――だから、ルイさんは直樹さんが浮気をしてないと断言できたのか。

 真相は、単純過ぎるほど単純だったというわけだ。

「そうよ」

 くるりと巻かれた毛先を指先で弄びながら、けだるげに沙也加が答えた。

「直樹君は、さくらちゃんがルイさんに懸想してると思い込んでいたの。最近の若者は、腹を割ってズバズバ話さないから厄介なのよ」

 お酒のせいか、ルイがいるというのに、沙也加は本調子で捲し立てている。

「ねえ、ここってお酒ないの?」

「今の当店は禁酒です」

「じゃあ隆太くん、買ってきてよ」

「良太です。ていうかお店の人がダメって言ってるのに、買いに行けませんよ」

 盛大なため息を吐くと、沙也加は両足を組んで、げんなりとした表情を浮かべた。
もはや、本性丸出しだ。

「あーあ。どうして私は、いい男に縁が無いのかしら。さくらちゃんなんかより私の方が、いい男捕まえる努力を何倍もしてるのに。ルイさんも、全く相手にしてくれないしね」

 言っていることはしおらしさからはほど遠いけれど、その声はいつになくしおらしい。