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閉店間際の『ボヌール・ドゥ・マンジェ』。
掃除したばかりのケージの中で、必死に回転車を走っているしろたんを見ながら、良太は背後でナプキンを折っているルイに問いかける。
「そういえばルイさん。どうして直樹さんが浮気してないってさくらさんに断言できたんですか? 調査したわけでもないのに」
ルイがさくらにシノワズリのコーディネートを伝授してから、一週間が経つ。
そろそろさくらは、直樹との話し合いの場を設けるかもしれない。どうなったのか気になって仕方ないが、さくらが訪れる次回の講座はまだ先だ。
「浮気していないことを、知っているからですよ」
指先を動かしながら、ルイは平然と答えた。
今日の折り方は、扇の中央に逆三角が突き出た、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』を彷彿とさせる形だ。ルイは、驚くほどの数のナプキンワークを知っている。
「どうしてそんなこと、分かるんですか?」
「ご本人に聞いたからです」
「……まさか、直樹さん本人から?」
良太がとんちんかんな返答をしたところで、入り口のドアがゆっくりと開いた。