上品なシノワズリの空間が、さくらの八宝菜を粉末の鶏ガラスープに頼っているとは思えない本格的な味へと変えていく。

とろけるような甘いあんに、野菜ときくらげの食感、うずらの風味。大好きな直樹の気配。

「美味しいな」
「うん、美味しい」

心の底から美味しいと感じられるのは、心の蟠りが開放されたあとだからだろうか。

知らなかった。

好きな人と一緒に食べる食事が、こんなにも美味しいだなんて。

いつしか、幼い頃の話をしていた。

付き合った頃の話をした。

それから、未来の話を少しだけした。

まるで付き合い立ての恋人同士のような新鮮な気持ちで、ふたりはその日、特別な家ディナーを余韻を長らく楽しんだのだった。