口ぶりから察するに、目の前の美丈夫は、おそらくこの不思議な店の主なのだろう。どうりで若い女性やマダムが集うわけだ。

店主は、ルイと名乗った。

奥に消えて行ったルイは、やがてティーカップの乗ったトレイを手にして戻ってきた。

白地にレリーフとバスケットの編み込み模様が描かれた、高価そうなティーカップ。同じ柄のプレートには、パンダ顔のクッキーが三枚入っている。

京成上野の駅構内で、良太はこのクッキーが売られているのを見たことがあった。

「先ほどのお礼です。どうぞ、ごゆっくり」
「なんか、すみません。いただきます……!」

バイト終わりで空腹だった良太は、遠慮なくクッキーを口にすることにした。サクサクとした、抜群の歯ごたえ。口の中が、ほろほろとバターの甘さで満たされていく。

「美味しい……」

続いて、ティーカップに口をつける。ビター風味のほどよい甘さ加減。バタークッキーとの相性もいい。ふうっと息を吐いたところで、良太は首を傾げながらルイを見上げた。

「……これ、あっためてあるけど、“ブランチの紅茶”っすね」

高校生の頃、良太は“ブランチの紅茶”を、よく購買に買いに走っていた。ビターテイストな“ブランチの紅茶”を、砂糖たっぷりの揚げパンと一緒に食べれば、最高に美味しいのだ。

ほんの少しの間のあと、ルイが頷く。 

「そうです。よくお分かりになられましたね」

「“ブランチの紅茶”、子どもの頃から好きなんです」 

厳かな空間に、馴染みのある飲み物が出てきたことで、彼に対しても親近感が湧いてきた。自然と、緊張で固まっていた気持ちもほぐれていく。

「ところで、ここって何のお店なんですか? 見たところレストランのようだけど、でも貼り紙には……」