特別な食事の空間は相手の本音を引き出す――ルイはそう言ったけれど、たしかに当たっているかもしれない。

ただ今回に至っては、相手ではなく、自分自身がその魔法にかかってしまったようだけれど。

「……直樹君。前に『ボヌール・ドゥ・マンジェ』に来たとき、沙也加さんとLINE交換したでしょ」

緊迫した空気の中、赤いガーベラを挟んで、さくらと直樹の視線が絡み合った。

 眉を寄せている直樹の顔は、何を思っているのか読み取れない。

 さくらの心臓が、ドッドッドッと鼓動を速めた。

 直樹が浮気を認めれば、ふたりの関係はここで終わりだ。それを恐れて、今までは問いただせずにいた。

けれどもさくらは、自分で自分を逃れられない状況にまで追い込んでしまった。

――もう、おしまいかもしれない。

さくらが覚悟を決めたとき、直樹がゆるく微笑んだ。

 張り詰めた空気がほどけるような、優しい笑い方だった。

「――なんだ。さくらも、俺と同じこと思ってたんだな」

 意図のつかめない直樹の答えに、さくらは困惑する。

続けて直樹は、さくらが予想もしていなかったことを言いだした。

「俺も、さくらに釣り合ってないんじゃないかって、ずっと不安に思ってた」
「……え?」

 柔和な笑みを崩さないまま、組んだ指先に顎を乗せ、直樹が語り出す。

「子供の頃のこと覚えてる? 飛んできた蜂から俺を守ろうとして、さくらも一緒に溝に落ちときのたこと」

「……覚えてるよ」

 蜂アレルギーの直樹を守ろうとしたのは事実だ。あの頃から、直樹のことが大好きだったから。

けれども、蜂だけを追い払うつもりだったのに、失敗して直樹もろとも泥だらけになってしまった。

「それから給食のとき、ピーマンが食べれなくて泣きそうになっていると、さくらがぶつかってきて給食が丸ごとダメになったこともあったな。俺がピーマンを食べなくて済むように、わざとそうしたんだろ?」

「わざとといえば、わざとだけど……」

 本当は誰にもバレないように、隣の席の直樹のお椀からピーマンだけを取ろうとしたのだ。

けれども手が当たって、ピーマンどころかお盆ごとひっくり返ってしまった。どん臭いさくらは、いつも空回りしている。