「それは……」

 みじめな気持ちになりながら、さくらは答えた。

「――直樹君に、釣り合う彼女になりたかったから」

 エキゾチックでエレガントなシノワズリの世界は、どこか浮世離れしている。

 いつもとは違う部屋の景色に、徐々にさくらは我を忘れていた。

「直樹君は私と違って、昔からモテてたでしょ。どうしてこんな子が直樹君の彼女なの?って視線をいつも感じてた。だから、ずっと直樹君と釣り合う彼女になりたいって思ってた」

一度も直樹に話したことのない心のつかえが、スルスルと喉を付いて出て行く。

日常からは一歩ズレたこの世界なら、何を言っても罪にはならないような気がした。

「初めてあのお店に見学に行ったとき、あんな優雅な世界になじめたら、自分が変われるんじゃないかって思ったの。でも実際は違った。逆に、どんどん自信を無くすだけだった。だって、周りがすごく綺麗な人ばかりだから」