「……どうぞ」

 静かな空間に、直樹の微かな租借音だけが響く。

 直樹は、八宝菜を口にしても、感想の一言も告げようとはしない。他愛のない話をしようともしない。

あまりにも静かだから、さくらは自分の心臓の音が漏れ聞こえるのではないかと心配になったほどだ。

「………」
「………」

 どうして直樹は、何も喋ろうといないのだろう。さくらは、だんだん不安になってきた。

ちらりと盗み見た直樹の表情は重かった。
これでは、いつもの食事の方が、よほど和気あいあいとしている。

 やはり、おしゃれでセレブな食空間演出など、身のほど知らずだったのだ。直樹の心を揺さぶる食空間は、さくらには作れなかった。

 黙々と、箸を進める直樹。

その向かいで、肩を落としながらどうにか食事をするさくら。

 何をやってもうまくこなせない自分には、ほとほと嫌気が差す。ルイも良太も、さくらのために一生懸命になってくれたのに。

 急に泣きそうになり、箸の先が震えた。

「……どうして急に、食空間演出なんて習おうと思ったんだ?」

 すると、唐突に直樹がそんなことを聞いてきた。

 直樹の刺すような眼差しに、さくらは一瞬たじろいだ。

さくらを咎めるような気配を感じたからだ。

 直樹は、きっと呆れているのだろう。
 身の程をわきまえず、食空間演出などという煌びやかな習い事を始めたさくらに。

 結果、お金を失っただけで、何も得ることはできなかったのだから。