片手に糞処理用のスコップを持っているとは思えないほどに、今日もルイの笑顔は美しく眩しい。

そこで、「おや?」とルイが小首を傾げた。

「後ろにいらっしゃるのは、もしかするとさくら様ですか?」

「こんばんは……」

 良太の背後で、さくらがルイに向かっておずおずと頭を下げた。

直樹と沙也加の関係を、もしかしたらルイなら知っているかもしれない。そう言うと、さくらは案外すんなり納得して、その足で良太とともに『ボヌール・ドゥ・マンジェ』に行くことを受け入れた。

 とはいえ実際のところは、自ら相談相手に買って出たものの、埒が明かなかったのでルイに丸投げしただけに過ぎない。

 さくらの話を聞き終えたあと、彼女の対面に腰かけたルイは、清々しいほど明瞭に言い切った。

「直樹さんと沙也加さんのことは完全なる誤解です」

「そうですか……?」

「はい。そして、あなたと直樹さんには、今すぐにでも話し合いの場が必要です。お互いのためにも」

 腑に落ちていないさくらに、ルイは静かだが迫力のある物言いで畳みかけた。

 ルイの隣でふたりのやりとりを目にしている良太は、釈然とせず口を挟む。

「どうして、誤解だって断言できるんですか?」

 浮気がなかったという根拠はどこにもない。さくらを安心するための言葉だとしても、もう少し確固たる何かが欲しいところだ。

でないと、もしも浮気が本当だったとき、さくらがより傷つく羽目になる。

 するとルイは良太の方を向いて、ダークグレーの瞳を鈍く光らせた。

「私は探偵ではありませんから、そういうことにはお答えしかねます。私は私のやり方で、さくら様のお悩みを解決したいと思います」

 そして、さくらに向き直る。

「直樹さんのお好きな料理は何ですか?」

「……中華料理ですかね。とくに八宝菜は、中華料理店に行ったらいつも頼んでいます」
「八宝菜ですね、なるほど」

 ルイは顎先に指をあてがい、しばらく思案に暮れていた。まるで、ファッション誌のモデルのポージングのようにも見える優雅な仕草だ。

ルイのやり方とは、すなわち食空間演出を駆使して、話し合いの場を設けろということなのだろう。頭の中では、あらゆるテーブルウェアが渦を巻いているに違いない。

 やがて椅子から立ち上がったルイは、奥の棚から食器を数個取り出すと、こちらに戻ってきた。