扉を抜け、階段を降りると、ドアの向こうは別世界だった。
部屋中に敷き詰められた深紅の絨毯には、オフホワイトのテーブルクロスが掛けられたテーブルが整然と並んでいる。
テーブルの上には、金色の燭台が置かれ、色とりどりの花が品を添えていた。見上げれば、火を灯したバースデーケーキのようなシャンデリア。
端の丸テーブルには、高価そうなティーカップ、ポット、デキャンタなどがところ狭しと飾られている。
「どうぞ、こちらへ」
中世ヨーロッパの貴族屋敷のような内装が似合いすぎる男が、椅子を引いて良太に微笑を向けている。
とてつもなく場違いなところに来てしまった気がして、良太はもふもふの白ネズミを抱えたまま、「す、すみません」と答えるのが精いっぱいだった。
「ああ、そうでした。先に、しろたんをお預かりしましょう」
男の手に抱かれると、しろたんは「ギュウ―」と低く唸って微かに抵抗した。それから真っ黒な瞳を名残惜しそうに良太へと向けながら、カウンター向こうにあるゲージへと連れて行かれてしまった。
「そこが、しろたんの家なんですか?」
「はい。別の部屋で散歩させていたのですが、喚起のために開けていた窓から脱走してしまったのです。あなたがいなかったら、どうなっていたことか。心より感謝いたします」