「もちろん、直樹君を信じています。でも、つい悪いことばかり想像してしまうんです。私、直樹君に釣り合ってないから。直樹君と違って、見た目がよくないし、人と話すのも苦手だし、仕事でも失敗してばかりだし。それに、子どもの頃から直樹君には迷惑をかけっぱなしで……」

 ぽつぽつと、さくらは過去のことを語り始めた。

 幼稚園年長の頃、直樹にぶつかってともに溝に落ち、彼を泥だらけにしてしまったこと。

 小三のとき、不注意から直樹の給食を床にぶちまけてしまったこと。

「……なるほど」

 さくらは、まるで自己否定の竜巻にでも呑み込まれているかのようだった。彼氏が浮気しているかもしれないという疑いが、さらに自己否定を深めてしまったのだろう。

何を言っても、この人はいい風には捉えない気がする。

良太は、返す言葉を失った。 

 不甲斐ない自分にげんなりしたとき、目の前にあるかじりかけのチョコクロワッサンに目がいった。

ルイへのお土産に買おうと思っていたが、もう金銭的に余裕がない。とりあえず、心の中で『ごめん、ルイさん』と誤っておく。

――ひょっとしたらルイさんなら、うまい具合にさくらさんを励ましてくれるかもしれない。

 そんな考えが ふと良太の脳裏を過った。