「いいんです。自分でも、ずっと分かっていたんで。そもそも、デブで冴えない私が、あんなおしゃれなお店で食空間演出を習うなんて、見当違いだったんです。みんな、そう思っているんですよね?」

「だから、そういうことを言ってるわけでは……」

「いいんです。分かってますから」

 さくらは、聞く耳を持とうとしない。雲行きが怪しくなってきたことに、良太は慌てた。

これでは、講座をやめる方向へとさくらを促しているようではないか。

 どうしてこうなった? と良太は頭を抱える。

「自分を、変えたかったんです……」

 チョコクロタワーに視線を落としながら、さくらが言った。

「『ボヌール・ドゥ・マンジェ』にはじめて行ったとき、あの優雅な世界になじめたら、自分に磨きがかかる気がしたんです。でも周りはキレイな人ばかりで、行くたびに磨きがかかるどころか、自分の醜さを思い知るようになって……」

 良太と目が合わないよう、瞳を伏せながら語るさくら。

さくらはきっと、極端に自分に自信が持てないのだ。優秀な兄たちと比べられて育った良太には、彼女のみじめな気持ちが痛いほど分かった。

どうにかしてあげたいけれど、どうしたらいいのか分からない。

同じ悩みを抱える良太も、解決策を知らないからだ。

「それに……」

 さくらが、顔を上げる。

 助けを乞うような表情に、良太の中のお人よし根性がふつふつと湧き立った。

「それに……?」

 言うか言うまいか渋っていた様子のさくらが、思い切るように声を絞り出した。