良太も受験で追いつめられたとき、好物のシュークリームを十個ほどドカ食いしたことがある。

大食いは、ストレスのサインだ。そのことに勘づくなり、またバカがつくほどのお人よし気質がせり上がってきて、迷わずカフェ店内へと足を踏み入れていた。

「さくらさんは、この辺で働かれているんですか?」

「はい。駅前のリフォーム会社で事務してます」

「そうでしたか」

「………」
「………」

 向かい合って座ったものの、会話が続かない。

考えてみれば、講座のときは会話すらしていないので、良太とさくらはほぼ初対面のようなものだ。

緊張を誤魔化すように、良太は自分のチョコクロワッサンを一口かじった。

「あの。良太さんは、どうしてここに……?」

「僕も、駅前のレンタルビデオ店でバイトしてるんです」

「レンタルビデオ店? ……ああ、あの“泣ける映画ランキング”の一位のところに、二十年以上『ショーシャンクの空に』が置いてあるお店ですね」

「よくご存じで。でもそれ、手抜きじゃなくて店員たちのリアルな気持ちだと思うんですよ」
「そうなんですか? よほどの名作なんですね」

 ほんの少し、さくらが笑った。
 良かった、少しだけ場が和んだ。