「私の会社も丸の内なんですよ~。どこかですれ違ってるかもしれませんね」

 甘ったるい声で、グロスの光る唇に弧を描く沙也加。

端から見れば見惚れるような笑も、沙也加の本性を垣間見たあとでは、ハンターの不敵な笑いにしか見えない。良太は、カウンター後ろで身震いした。

 さくらといえば、相変わらず蚊帳の外に追いやられ、ひとりもじもじと俯いている。

その表情は浮かないもので、とてもではないがイケメンの彼氏がいて幸せいっぱい、という風には見えない。

一方の直樹は、その間も沙也加をはじめ女性たちの輪の中心に引きずり込まれていた。

「ところでお店の方は、あなただけなのですか?」

 しばらく経ったところで、直樹が良太に尋ねてきた。

店員っぽい立ち位置にいながらも、薄手のパーカーにデニムというラフ過ぎる格好の良太を訝しんでいるようだ。目線が、警戒するように良太の全身を観察している。

「いいえ。あの人は、ただのアルバイトの隆太くん。ルイさんは今席を外しているの」

 良太が答える前に、沙也加が口を挟んだ。

「……あの、隆太じゃなくて良太です」

 良太の小さな反論が無視されたところで、厨房のドアが開く。

「お待たせいたしました。皆さま、ティータイムを楽しんでいいらっしゃいますか?」

 ルイが、ようやく戻ってきた。

いつも以上にルイの存在をまぶしく感じて、良太はホッと息を吐く。

「おや? お客様が増えていらっしゃるようですね」

「ルイさん、この方は直樹さん。さくらちゃんとお付き合いされているんですって。講座の見学に来られたそうよ」

 しなを作りながら率先して答えたのは、やはり沙也加だった。

「そうでしたか。ようこそ当店へ。本日の講座はもう終わってしまったのですが、ご興味がおありでしたら、お話を伺いましょうか?」

「あ、いえ……」

しばらくの間呆けたようにルイを見つめていた直樹が、我に返ったように言葉を発する。

「……いつもさくらがお世話になっているようで、ありがとうございます。今日はさくらの様子を見に来ただけなので、もう大丈夫です」

「そうなんですね。こちらこそ、お世話になっております。どうぞ、ゆっくりされて行かれてください」

 微笑むルイを、直樹は再び時が止まったかのように見ていた。