男性は、清潔感のある短めの黒髪に、爽やか系の俳優にでもいそうな整った顔立ちをしていた。

引き締まった唇と、きりりとした眉は、いかにも仕事ができそうな印象を受ける。おまけに、180はありそうな高身長だ。

 女性たちの意識が、一気にそちらに吸い寄せられる気配がした。

 姿勢を直し、さりげなく片手でヘアスタイルを直しはじめる彼女たち。さっきまでの猛獣モードはどこへやら、場は一気にしおらしい空気に包まれている。

「そういえば講座はもう終わっていまして、見学してもあまり参考にならないかもしれません……」

 今更のように現況を思い出し、説明する良太。けれども何かを探すように女性たちに視線を這わせている彼の耳に、良太の声は届いていないようだ。

「あの……」

「さくら!」
「直樹くん……?」

男性の呼びかけに、驚いたようにさくらが椅子から立ち上がる。

 男性は、八人掛けのテーブルの一番端にいた彼女のもとへと、嬉しそうに歩み寄った。

「どうしたの、急に? 出張中じゃなかったっけ?」

「出張は、今朝までだったんだ。成田から会社に戻るついでに、途中下車してさくらの様子を見に来てみた。しばらく、時間が空いてるしね。さくらが夢中になっている食空間演出講座って、どんなのか気になってさ」

「そうだったんだね。あんまり突然だから、びっくりしちゃった」

 さくらの隣に並んだイケメンサラリーマンが、清涼感溢れる笑顔で呆気に取られている面々を見回した。

「皆さんはじめまして。いつも、うちの彼女がお世話になっています」