家でどんな風にくつろいでいるのか、何を好んで食べるのかも知らないし、想像すらつかない。

彼の完璧なまでの容姿と立ち居振る舞いを見ている限り、私生活が想像つかないのだ。

ルイという男は、とにかく謎だらけだった。

「ふうん、そうなの」

 気のない良太の返事に、沙也加が刺すような視線を返す。

 役立たず、と眼力だけで言われた気がして、良太はすくみ上がった。まるで、豹に睨まれたハイエナの気分だ。

 本性の見え隠れする女子トークは、その後も延々と続いた。

「ルイさん、まだかなあ……」

カウンターに頬杖をつき、自分にしか聞こえない独り言をぼんやりと呟いたところで、良太はふと、テーブルの隅で所在なげに俯いている女性に気づいた。

必死に講座のメモをとっていた、紺色のワンピースの彼女だ。

そういえば、彼女は女子トークにほとんど入っていなかったように思う。

「さくらちゃんも、コンパとか行くの?」

 沙也加が、そんな彼女に話を振る。

「あ、いえ。私、そういうのは苦手で……」

「そうなの、もったいない。行ったら絶対モテるのに」

「そうそう。さくらちゃんみたいな子って、何気にモテるのよねー」

 クスクス、とどこからともなく湧き上がる笑い声。女性たちの言葉が上滑りしているように聞こえるのは、気のせいではないだろう。

 鈍感な良太ですら、太めで地味なさくらを、皆が遠回しに見下しているのが分かった。

「そういえばさくらちゃんって、紺色のワンピース好きよね? 何枚持ってるの?」

「同じのをいつも着てるだけです。お金ないし、体系に合うものもなかなか見つからなくて……」

「あらそうなの? じゃあ、失礼なこと言っちゃったわね。ごめんなさい」

 クスッと、また小さな笑いが起こった。明かにさくらを小馬鹿にしている空気が我慢ならなくて、良太が思わず立ち上がろうとしたとき、タイミングよくドアの開く音がした。
どうやら、来客のようだ。

良太は慌てて、入り口から入ってきたグレーのスーツ姿の男性に声をかける。

「ごめんなさい、今は貸切中なんです。表にプレートを提げてたと思うんですけど……」

「貸切だということは知っています。突然すみません。食空間演出の講座を、少しだけ見学したいと思いまして。よろしいでしょうか?」

「見学ですか? 大丈夫ですけど……」

「ありがとうございます」