同封の紙に目を通し、ルイが言った。

「緊急って、いつまでですか?」

「明日までとのことです。今日中に修理して送らないと、間に合わないでしょうね」

「今日中ですか!?」

 なんと自分勝手な言い分だろう。けれどもよほどの得意先なのか、よくあることなのか、ルイは平然と受け止めている。

「そういうわけで、私は今から裏で修繕に入ります。良太君はこちらで彼女たちを見守っていてくださいますか?」

「分かりました……!」

 講座自体はもう終了し、今はいわばサービス的なティータイムだ。ルイが抜けても、業務としての問題はないのだろう。

 ルイが所用で席を外すと言うと、女性たちはあからさまにがっかりしていた。

「あーあ、ルイさんいなくなっちゃった。残念」

「はぁ~、やっぱり今日も素敵だったわぁ」

 ルイがドア向こうに消えるなり、彼女たちを取り囲む空気が一変した。伸びていた背筋は思い思いに崩れ、輝くような笑顔も覇気をなくす。

「ねえねえ、沙也加さん。そういえばこの間、六本木の婚活パーティー行ったんでしょ? どうだった?」

「おじさん多くてイマイチだったわ。年収が良くても、体系崩れてるのは生理的に無理なの」

「そういえば、コンサルの彼はどうなった?」

「ああ、あのマザコン男? もしも結婚したらママも一緒に住みたい、なんて言ってたから別れたわ」

「なにそれ、キモイ!」

「顔もたいしたことなかったし、完全アウトでしょ? ルイさん級の男はなかなか転がっていないものねえ」

なんだ、この清々しいまでの変わりっぷりは。

良太の額に、冷や汗が湧く。ルイがいた二時間、気品ある仕草で上品な笑い声を響かせていた淑女はどこに消えたのだろう?

 ――女の人ってコワい。

 立場をなくした良太は、逃げるようにカウンター下に身を隠そうとした。けれども、「ねえ」という甲高い声に呼び止められる。 

 ルイが沙也加と呼んでいた、レオパードインナーにベージュドレスの女性が、良太に向けて意味深に微笑んでいる。周りの空気から察するに、彼女がリーダー格のようだ。

「……なんでしょう?」

「前から知りたかったんだけど、ルイさんに恋人はいらっしゃるの?」

「さあ。まだ付き合い浅いんで、よく分かりません」

 考えてみれば、良太はルイについてほとんど知らない。指輪をしていないので独身だとは思うが、定かでないし、恋人はおろか友人の影もない。