シノワズリという不思議な器を、良太は初めて見た。

もしかすると実家の戸棚に並んでいるのかもしれないが、食器など今まで意識して見たことはない。

 ルイがずらりと並べたティーカップやプレートは、形やデザインはたしかに西洋のものだった。

けれども描かれているのは、水墨タッチの風景や旗袍(チーパオ)を纏った人物など、中華を連想させるものばかりだ。

「シノワズリの器には中華料理が合いますが、西洋料理もおすすめです。相反する文化が共存することで、互いの美が引き立ち、新たな魅力が生まれるのです。センターに中国になじみ深いお花を置くと、異国情緒がほどよく演出できるでしょう。今回は、中国で健康の花と呼ばれる色鮮やかなシャクヤクを用意しました」

 女性たちはみな、うっとりとルイを見つめ声に聞き惚れている。

 そのせいで、テーブルの端でひとり懸命にペンを走らせている女性が、やたらと目立って見えた。

年は、二十代半ばといったところだろうか。黒髪のおかっぱ頭に、地味な紺色のワンピース。

他の女性たちより二倍はウエストがありそうな、ふくよかな体つきをしている。

美容院でセットしてきたと思われるヘアスタイルに、色とりどりの華やかなドレス姿の女性たちの中では、身なりからしても明らかに浮いている。

 二時間に及んだ講座が終われば、ティータイムだった。

 ルイがマカロンタワーの乗った配膳ワゴンを引いて現れると、女性たちが「きゃあっ」と黄色い声をあげる。

「きれい~!」
「ルイさんのセンス、さすがね!」

 ラベンダー、ピンク、ベビーピンク。ケーキスタンドの上に、乙女心をくすぐる配色のマカロンが規則的に重ね上げられたそれは、見るからに女性が好みそうなものだ。 
  
ちなみにルイがあらかじめ手配していたそれを、明朝近所のケーキ屋から受け取ったのは良太だった。

「……どうぞ」
「あら、ありがとう」

紅茶の配膳は、良太も手伝った。ほんのりと漂う香りから、また“ブランチの紅茶”を温めたものだとすぐに分かった。

上機嫌な女性たちのティータイムがはじまり、しばらく経ったところで、裏口の呼び鈴が鳴った。

宅配便の配達だ。良太が受け取った小包を、頃合いを見計らって女性たちの傍を離れたルイが確認しにくる。ぐるぐるに巻かれたクッション材の中には、縁の欠けたティーカップが入っていた。

「お得意様から、緊急修理のご依頼のようです」